佐賀・福岡の靴屋 ティックワールド

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会長と私の靴奮戦記 Vol.12
2022.03.06 | column

「とにかくソフトや。柔らかい靴を作れ!」

M.ando

 

佐賀にいる会長から電話がかかってきた。

 

ティックワールドは元々イタリアンドラッドが強味のメーカーだった。

でも世の中が変わってきている。

これからはソフトな靴を作らなければメーカーとして生き残れない、という思いで私に連絡をしてきたときのコトバがこれ。

 

今から20数年前のことだ。

 

それから市場リサーチをし、会長は神戸に戻り、タンナーに衣料革を靴に仕様できるように作ってもらい、私は裏の仕様をいろいろ試しながら試行錯誤の日々。

 

中でも一番の思い出はデザインの選定作業。

 

神戸の広い事務所のショールーム兼商談室の床に、私のデザイン画と会長のスケッチを、床を埋め尽くすように広げて、床に座り込んでアーダコーダと二人で話しながら修正しながら一つ一つのデザインを決めていった。

 

その中の一つのデザインは今も木型や製法を変えながらJUMBOの顔の一つとなっている。

ゴムのレースアップブーツだ。

 

 

元はどちらのデザイン画で、さらにどういうふうに練り込んでいったのかもわからないくらい多数のデザインを作り上げていった。

 

そして思い出のレースアップブーツを含め、出来上がったサンプルを私がかつて勤めていた百貨店問屋さんにプレゼンを行い、一つのブランドとして取り上げて頂いた。

当時はとても高評価を戴いた商品群だ。

 

そしてそれからその会社の企画女子も交え誕生したのが今も年間通して人気のカジュアルシューズ。

まだまだソフトの靴はあまりなかったので、どうすればソフトな靴を作れるか、本気で向き合いながら会長と作り上げたあの貴重な体験。

「ゴムや。ゴムを上手く使うんや。ソフトな革で足を止めるためにはゴムが一番合う」

「天然革とハイテクゴムとのミスマッチや」

 

会長の熱量半端ない!

私も負けじと熱く返す!

 

デザイン画の段階であんなに真剣に時間をかけて練り上げ、しかも会長に一度も怒られずに企画を進めることができたのは初めてだった。

 

それほど会長も私も夢中になってモノづくりを楽しんでいたのだと、今改めて思う。

・・・つづく

 

神戸こぼれ話

「海ぼうず」

 

いきさつは忘れてしまったが、同業者とあまり付き合わない会長が唯一長田のメーカーの社長と知り合いになった。

会長はその人を「海ぼうず」と呼んでいた。

丸坊主頭で、一歩間違えたら違う世界の人かな、と思えるような風貌だ。

 

ある日その人と食事に行って大喧嘩をした。

理由は覚えていないがかなりの怒鳴りあい。

 

そしてその翌朝。

 

会長は私を連れてその会社へ行く、と言い出した。

「気まずいし、そんなとこ行きたくないし。で、なんで私を連れて行く?」と思いつつも社長命令。

しぶしぶ行って驚く。

思いっきりの笑顔と大きな声で「まいど!」と入っていったのだ。

 

海坊主社長は「よう来てくれた!あんたは、さすがや!」と大声で答えて二人で握手して、お互いを讃え合った。

なんや、コレ?!ワケわからん。

 

会長は私にいろんな背中を見せてくれてたんだなぁ。